2000年代前半、ネットの急速な普及に伴い、ネット上でのコミュニケーションのあり方を模索する試みとして、さまざまなソフトウェアが開発されました。
現実世界の他に存在するもうひとつの世界として、その内部でのビジネスまで可能な程リアルな生活に近づくよう考慮されて作られた『Second Life』のような仮想世界(メタバース)が生まれた一方、見知らぬ誰かとのコミュニケーションにのみ特化されたソフトウェアも登場しました。
そんな時代に生まれたゲームが『The Endless Forest』です。
■『The Endless Forest』の生みの親 Tale of Tales
『The Endless Forest』はベルギーのインディーゲームデベロッパー、TALE OF TALES社が開発したゲームです。
TALE OF TALES社の作品の最大の特徴は、アート寄りの作風そのものにありました。
モノクロの画面で老婆を操作し、ただ墓場を歩くだけのゲーム『The Graveyard』や、童話『赤ずきんちゃん』をモチーフにした風変わりなホラーゲーム『The Path』など、TALE OF TALESの作品はどれも独特のビジュアルセンスを持つ、アート系ゲームと称されています。
純粋にゲームとして見た場合、それらの作品はゲーム性に乏しいと言わざるをえず、ゲームファンから批判されていたのも事実ですが、ゲームの持つ操作性(インタラクティブ性)を使った新しい映像表現作品として、高く評価されることもあったのも確かです。
ゲームのインタラクティブ性を活かした表現作品、という意味では、後に登場してくる『風ノ旅ビト』のような作品の原点であったとも言えるかもしれません。
2015年に発売した『Sunset』が失敗に終わり、TALE OF TALESは商業用ゲーム開発からの撤退を発表しました。
■シカになってゆるいコミュニケーション
TALE OF TALESでは現在『The Endless Forest』のリメイク企画が進行しており、Indiegogoで4万ユーロ獲得を目標としたクラウドファウンディングを行っています。
『The Endless Forest』は2005年に無料公開されたオンラインマルチプレイ対応の作品です。
プレイヤーは1頭のシカとなり、鬱蒼とした森で、他のシカ=プレイヤーとの交流を楽しむことができます。
戦闘やストーリーのようなゲーム的ギミックは存在しません。
ただ、気ままに森の中を散策し、コミュニケーションすることがプレイの目的となります。
コミュニケーションが主目的と言っても、このゲームにはチャット機能すらありません。
言葉を用いることができない代わりに、プレイヤーの操作するシカには多くの動作(Motion)や感情表現(Emotion)が用意されており、それを使うことで他のシカたちとのコミュニケーションを図ります。
一見、言葉が使えないのは不便とも思えますが、逆に言葉がないからこそ、世界中のプレイヤーと気楽にゆるいコミュニケーションを楽しむことができる、とも言えるでしょう。
リメイク版『The Endless Forest』の公開時期は2016年11月現在未定ですが、TALE OF TALESではクラウドファンディングの結果によらず、オリジナルに新規要素を加えたものを無料公開する予定とのことです。