1990年代から2000年代前半にかけ、人気を博した「ノベルゲーム」。
ゲーム機の描画能力が向上した現代では、いささか古いタイプのゲームと思われることも多く、残念ながら新作を目にすることはほとんどなくなってしまいました。
しかし、そんなノベルゲームを最新のVRで復活させようとする動きもあるようです。
■ノベルゲームとは?
コンピュータゲームがいまのように普及する以前の時代、ゲームブックと呼ばれる書籍がブームになった時代がありました。
通常の小説がページを順に追って読んでいくのに対し、ゲームブックは複数の番号を振られた文節(パラグラフ)によって構成され、文末で指定されたパラグラフの番号へと読み進めることになります。
多くの場合、文章は主人公=読者視点の一人称で書かれており、文節の最後には複数のパラグラフの番号が振られています。読者は任意で読み進める先のパラグラフを選択することが可能で、こうすることにより、通常なら1つのストーリーしか描けない小説を、プレイヤーが望む複数のエンディングへと分岐させることが可能になるわけです。
この「ストーリー分岐する小説」であるゲームブックのシステムをコンピュータゲームの世界に持ち込んだのが一般に「ノベルゲーム」と呼ばれるジャンルのゲームです。
ノベルゲームの起源と呼ばれているのは、チュンソフトが1992年に開発したスーパーファミコン用ソフト『弟切草』であると言われています。同社のノベルゲームは『サウンドノベル』と呼称されています。
「サウンドノベル」がその名の示す通り「文章+音」を重視したのに対して、キャラクターのビジュアルという要素をそれに加味する形でリリースされたのがLeafのリリースした「ビジュアルノベルシリーズ」です。
アダルトゲームでありながらそのストーリー性の深さが高く評価されたこともあり、同シリーズ以降、ノベルゲームのシステムはアダルトゲームの主流となり、逆輸入する形で性的描写を排除した一般向けタイトルがゲーム機用にリリースされるようになりました。
ノベルゲームには、他ジャンル(例えばアクションゲーム)のような複雑なプログラムが必要とされず、基本的なゲームエンジンさえあればタイトルを量産しやすいという利点もありました。開発力が弱いアダルトゲームのメーカーの多くがノベルゲームのシステムを採用したのも、文章とキャラクターのビジュアルがあれば成立させやすかったことも要因のひとつです。
しかし、年月と共に高度化していくコンピュータゲームの中で、旧来的なノベルゲームのシステムは旧態依然化を免れず、「紙芝居」などと揶揄されるようになってしまいます。
現在では、ゲーム機用の一般向けタイトルとして発売されるノベルゲームはほとんどなくなってしまいました。
■VR時代の新しいノベルゲーム『Angels and Demigods』
ノベルゲームが「紙芝居」のようだ、と言われる原因のひとつは、視点が固定されていることにあります。
通常、キャラクターを主体としたノベルゲームでは、背景画像の前に立つ「立ち絵」と呼ばれるキャラクターのビジュアルと会話することでストーリーが進行しますが、その画面構成が(プレイヤーの視点が固定されているが故に)まるで紙芝居のページを送るように見えることが原因となっているわけです。
これはモニターを介してノベルゲームをプレイする場合の必然的制約であるともいえますが、それでは、プレイヤーがそのモニターの向こうの世界=キャラクターがいる世界へと一歩踏み込んでいけるとしたらどうでしょうか?
最新のVR環境を活かし、プレイヤーがゲームの物語世界へ一歩踏み込んでいく、そんな体験の実現を目指しているのが『Angels and Demigods』です。
この作品の最大の特徴は、VR機能を活かし周囲360度が見渡せること。
プレイヤーは見る方向を変えることで話しかける相手を選択し、会話を進めます。YouTubeに、本編と同様に周囲を見回すことのできるデモ映像がアップされています。
(動画中の画面左上の十字ボタンで視点を移動させられます)
いかがでしょうか?
旧来のノベルゲームが、演劇の観客視点=物語を外の世界から鑑賞する印象が強かったのに対し、VRを使うことでまるで自分がその演劇の舞台に立っているような感覚を味わうことができますね。
『Angels and Demigods』を製作している7 Keys Studiosは来年4月に予定されているリリースを実現するために現在クラウドファンディングサイトであるKickstarterで開発資金を募っています。
果たしてこのゲームがノベルゲームの新たな境地を切り開くことになるのでしょうか?非常に興味深いところです。